日独・熊出没の謎
 先日東京に滞在している時、テレビで熊が人里に多く出没するというニュースを流していた。

木に熊が登って、うまそうに柿を食べている映像を見て、びっくりした。

環境省によると、今年1月から10月の間に捕まった熊の数は、4300頭、熊に襲われて死んだりけがをしたりした人の数は、130人にのぼり、過去最高を記録した。

熊の目撃例も、例年の数倍に増えている。

その理由としては、熊の好物であるブナの実が不足していることが指摘されている。

つまり、今年は何らかの理由で、熊が自然界で十分に餌を採れなくなっているのだ。

 ところで、私が住んでいるドイツでも、気になる現象が起きた。

今年5月に、大きな茶色の熊がイタリアからオーストリアを経て、ドイツ南部のバイエルン州にやって来たのである。

ブラウン・ベアと呼ばれるこの熊が、ドイツで目撃されたのは、170年ぶり。

ふだんはアルプス山系の高地に生息しているのだが、今年は人里に姿を現わし、農家が飼っている鶏やうさぎ、羊を次々に襲って食べるようになった。

ある養蜂農家では、熊が蜂の巣を壊して、蜂蜜を食べていた。

農家の庭先にいた熊に、農婦が「こらー!」と大声を出したら、逃げていったというエピソードも報告されている。

 「ブルーノ」というあだ名を付けられたこの熊は、夜に自動車と接触したり、村の居酒屋の近くを歩いていたりしたことから、バイエルン州当局は人間に危害を及ぼす可能性もあると判断。

罠を仕掛けても捕えることができなかったため、6月26日にハンターがブルーノを射殺した。

ドイツだけでなく、外国の動物保護団体からも、「何も殺さなくても」という批判の声が上がった。

 私は科学者ではないが、日本とヨーロッパで同じ年に熊の出没例が増えていることは、偶然ではないような気がする。

地球温暖化によって、気候に変化が生じていると言われて久しい。

アンドリュー、ギルバート、台風19号、ダリア、カトリーナによる災害、そして欧州の夏の異常高温や、中東欧の未曾有の洪水、日本の豪雪などは、その表れと言える。

この気候変化が、熊の好物の木の実が十分に育たないような環境を生んでいるのかもしれない。

アルプスでは、平均気温の上昇のために、氷河が溶ける一方である。自然界のバランスは、我々の眼に見えない所で狂い始めているのだろうか。

杞憂であって欲しい。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹) 筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

保険毎日新聞 2006年12月